東京高等裁判所 昭和52年(行コ)6号 判決
東京都中央区銀座三丁目九番一八号
控訴人
エムプレスベッド販売
株式会社
右代表者代表取締役
岡本柳太郎
右訴訟代理人弁護士
江尻平八郎
同
安藤貞一
同
尾崎力男
右訴訟復代理人弁護士
鵜川益男
東京都葛飾区立石六丁目一番三号
被控訴人
葛飾税務署長
右指定代理人
竹内康尋
同
古俣与喜男
同
山田信英
同
土屋茂雄
同
田中正則
右当事者間の物品税決定処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が昭和四三年七月一九日付でなした控訴人に対する物品税決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上・法律上の主張及び証拠の提出・援用・認否は、次のとおり附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
一 控訴人の主張
(一) 控訴人と同様な家具類の販売業者の中には数多くの業者がその販売する商品の買受けについて製造業者とかなり密接な関係をもっている。そのような関係をもたないと、資本の回転が悪く長期に資本を寝かせておく家具類の販売業者にとっては営業が成り立たない。したがって、法七条一項のみなし規定を厳格に適用すると、殆んどの業者がその適用を受けるに至る虞れが多分にある。そのために、税務署は行政指導の面を強化してその指導にあたらせているのが実状であって、当然の措置である。控訴人も約六ヵ月間の長期にわたり税務担当者からその指導をうけ、改善の実をあげていたのであって、そのことは指導を担当した係官も自ら認めていたのに、その後突然控訴人だけが狙われて今回のような課税処分を受けた。しかも、みなし課税をされた業者は控訴人が初めてであるといわれている。したがって、控訴人は、税務当局の誠意を疑い、今回の課税が当局の恣意による控訴人だけを狙った違法な処分であると主張するものである。これはまさに憲法一四条の法の下に平等であるべき控訴人の基本的人権を侵害し経済的な差別をしているものといわざるをえない。
(二) 控訴人と訴外会社との間における家具類の取引については、原価計算及び適正な利潤を計上した客観的な取引価格が形成されており、今回課税の対象とされた商品についても、両社は客観的な取引価格をもって取引をしているのである。被控訴人がこれを疑うならば、先ず自ら適正な取引価格を試算し、その当否を検討した上で取引価格の不当性を追求すべきであるのに、試算も調査もせず、ただ国税庁長官の定める金額を適用して課税標準を算定するのは違法であり、仮にしからずとしても、国税庁長官の権限を規定した告示第八号は、憲法三〇条が納税について国民に保障した租税法定主義に違反し無効である。
二 被控訴人の主張
(一) 税務当局は、常に納税者に対する指導及び質問検査権の適法な行使を通じ、法令の取扱、手続方法等正しい税知識の普及向上を図るとともに、企業並びに課税物品の生産取引等の実態に則して厳正適確に法令を執行することにより、適正な自主申告納税の推進、課税の公平及び適正課税の確保に努めている。したがって、法七条一項のみなし製造者に該当する要件を具備している納税者について、同条項の規定を不適用にさせるために税務当局がこれに介入し、当該納税者における取引等の実態を変更するよう指導することもなければ、恣意的に、右要件を具備する特定の者に対してのみ課税処分を行い、同じく右要件を具備する他の者について課税処分をしないというようなことはありえないことであり、かつ、実際上も全くなかったものことである。
控訴人に対する本件物品税調査は既に述べたとおり終始適法に行われたものであって、その結果に基づきなされた本件決定処分が憲法一四条一項に違反する筈がない。控訴人主張のような、被控訴人所部職員の指導によって実態が改められ、右職員がこれを確認したという事実はない。
(二) 控訴人は国税庁告示第八号の違憲無効をいうが、法一一条三項の「前二項に規定するもののほか、第一項第二号に掲げる金額の計算に関し必要な事項は、政令で定める」との規定により委任を受けた政令は、当該委任を受けた範囲内において法施行令八条ないし一五条を制定し、その一〇条で「その他前二条の規定に該当しない場合における当該物品に係る法第一一条第一項第二号に掲げる金額の計算については、第八条又は前条第一項の規定に準じ、大蔵省令で定める」ことを明定して、更に必要な事項については大蔵省令にそれを規定することを委任した。そこで、当該委任を受けた大蔵省令は、当該委任を受けた範囲内において法施行規則四条ないし八条を制定し、その六条一項三号で「小売業者の通常の利潤及び費用に相当する金額並びに当該物品に課されるべき物品税額に相当する金額の合計額として国税庁長官の定める金額」ということを明定し、国税庁長官に当該金額を定めるよう義務付け、よって、国税庁長官は当該金額を定めるとともに、前掲国税庁告示第八号を昭和三八年五月一日付けで告示したものであって、同告示自体法的根拠を有すること明白であり、控訴人主張のように違憲無効となるものではない。
三 証拠
控訴人は当審証人塚田勇・同三浦金作の各証言及び当審における控訴会社代表者岡本柳太郎の尋問の結果を援用した。
理由
当裁判所も、本件課税処分につき、控訴人の主張するような違法の点は認められないものと判断する。その理由は、次のとおり附加するほか、原判決理由欄に認定・説示されているところと同一であるので、これをここに引用する。
一 当審において新たに取り調べた証拠を勘案しても、右に引用した原判決の事実認定を左右しうべき理由は見出しえない。
二 本件課税処分が控訴人だけを狙った恣意的処分であるとする控訴人の主張の認められないことは、右に引用した原判決の判示するとおりである。したがって、憲法一四条の違反をいう控訴人の主張は、前提を欠き、到底採用しうべき限りでない。
三 控訴人と製造者である訴外会社との間の取引価格を課税標準とすべきであるとする控訴人の主張が、控訴人が製造者とみなされる本件において採用しえないことも、原判決の説示するとおりである。そして、控訴人が問題とする国税庁告示第八号の法的根拠は被控訴人主張のとおりであり、右施行令・施行規則・告示に基づく課税標準の算定方法は、その予定する取引形態のもとにおいては、公平で合理的な算定方法として、法の趣旨に反するものではないと認められるから、租税法定主義違反をいう控訴人の主張も、採用するをえないところといわなければならない。
以上のとおりであるから、原判決は正当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条・八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(判事 三井哲夫 裁判長判事高津環は退官につき、判事横山長は転補のため、いずれも署名捺印することができない。判事 三井哲夫)